カガク De 暮らす

元研究者のゆるーいブログです。職業病により、家庭でもカガクしています。

「実験ノート」なるもの-第2回 実験ノートってなに?

 

こんにちは、コガです。

唐突に始まった ”「実験ノート」なるもの” シリーズ第2回です。

STAP問題でそのワードが広く知れ渡った、「実験ノート」とはどのようなものか、今回はかみ砕いて説明しようと思います。実験ノートというものの面倒くささを感じてもらえたらと思います

 

実験ノートってどんなもの?

まずは、実験ノートは何か?前回も書きましたが重要なのでもう一度。

 

実験ノートは「実験の証拠であり、その組織(ひいては全世界の科学技術)の財産となるべきもの」で、「いつ、だれがどのような実験をし、どのような結果が得られたか。」という内容を、「第三者が実験ノートに従って実験したら、同じ結果が得られる(再現性の確保)」レベルで書きます。また、特許論争や内容の信頼性確保のために、「改ざんできない形で書きます。

 

実験の証拠、組織の財産なので、基本的に実験ノートは研究室で保管され、書いていた人が卒業または退職するときは、その研究室に置いていきます。書きかけのノートも、研究室内ではだれでも閲覧できるようにしておくことが望ましいです。

すでに、学校の授業で使うノートとはまったく違いますよね。

「いつ、だれがどのような実験をし、どのような結果が得られたか」を書くものなので、日付と記入者・実験者名が必要です。そして、一番面倒なのは、「同じ結果が得られるように」書くことです。それには、実施した手順はもちろん、使った試薬の情報(メーカー、ロットナンバー、ものによっては開封日や保管場所)や、測定機器の情報(機器名、測定条件)、使った容器の材質や大きさ等も記入しなくていはいけません。

そして、「改ざんできない形で」記入する、ということは、消えないボールペン(黒か青)などで記入すること、測定結果等を貼り付けする場合は全面をのり付けして割り印を押すこと、誤記を訂正する場合は元の文字が読めるように二重線を引き、「”誤記訂正”、日付、訂正者のサイン」を記入すること、各ページに記入者のサインと確認者のサインをすること(ダブルチェック)、などが挙げられます。

これでやっと、行った実験に対して信用が得られるのです。

(厳密には、さらにこれらノートやデータを公証役場等に持って行って、日付と証明をもらうことで、特許論争等で有効なものになります。)

もちろん、特許や品質管理(ISO、GMP*1)等に関わらない場合はいくつか省略しても良いと思います。といっても、貼り付け資料の割り印や誤記訂正の記述、各ページのサインくらいでしょうか。使った容器の材質や大きさなんて一見どうでもよさそうですが、実験には重要です。容器の材質によって、ある成分が容器に吸着したりして、まったく違う結果になることがあるからです。

研究に携わるみなさん、できていますでしょうか?

ちなみに、私の大学時代のノートを振り返ったところ、全然できていませんでした・・・。そもそも実験ノートが今、手元にある時点でアウトです。

 

ちなみに、今までのはただの「原則」です。

このうえさらに面倒くさい「正しい(とされてきた)実験ノートの書き方」が存在します。・・・とその話の前に、難しい話ばかり続いてもアレなので、身近な「料理」を題材にして、実験ノート風にまとめるとどうなるか、やってみましょう。

 

味噌汁をつくって塩分濃度を測定したと仮定して、実験ノート風にまとめてみる

 

料理と実験は似ていると良く言われますので、料理を実験ノート風にまとめてみます。

作るのは日本の家庭料理の友、お味噌汁。具は豆腐とわかめとわけぎにしましょう。「結果」と「考察」が欲しいところなので、仮に塩分計で塩分濃度を測定したことにしてみます。

 

【実験日】2014.x.xx
【実験者】■■■■
【実験題目】味噌汁を調理し、塩分濃度を測定する。
【背景、目的など】味噌汁は一般的に塩分濃度1%と言われており*2仮に1食あたり150 mLを三食とると4.5 gとなる。塩分の摂取量は1日8~10 g以下が望ましい*3とされているが味噌汁だけでその半分に達する。そこで自宅で普段調理する味噌汁の塩分濃度を測定、把握することを目的とする。

 

【方法】

●素材の準備

  • 絹ごし豆腐(商品名xxx、xxx社製)150 gを、約1 cm角のさいの目切りにした。
  • わけぎ(商品名xxx、xx県産)10 g、約2ミリメートル幅の小口切りにした。
  • 乾燥ワカメ(商品名xxx、xxx社製)を5 g秤量した。
  • 味噌(赤白合わせみそ、商品名xxx、xxx社製、製造番号:xxxxxx、製造年月日:xxxx年xx月xx日)を30 g秤量した。

 

●味噌汁の調理

浄水(水道水を、浄水器(xxx社製、型番:xxx-xxxx)に通したもの)350 mLを、アルミ製の700 mL容片手鍋に入れ、中火(コンロの火力レバーを中央に設定)にかけた。ガスコンロはxxx社製、型番:xxx-xxxxを使用。
  ↓
沸騰したら、顆粒だし(商品名xxx、xxx社製)小さじ1杯を添加し、絹ごし豆腐、わけぎ、乾燥ワカメを加えた。
  ↓
再び沸騰したら、火を止め、おたまで味噌をすくい、少量のゆで汁でおたま上で味噌をといた後、その全量をなべに入れた。
  ↓
汁が均質になる程度に軽く撹拌した。

 

●塩分濃度測定
味噌汁をゆるやかに撹拌しながら、塩分濃度計(xxx社、型番:xxx-xxx)で塩分を3回測定し、その平均値をこの味噌汁の塩分濃度とした。

 

【結果】
塩分計での測定結果 単位は%(w/v)
1回目 0.9 

2回目 0.8

3回目 0.9

平均 0.9

【考察】
ほぼ一般的な味噌汁とされる塩分濃度と同等の値であった。出汁の活用や、具材の増量などにより、汁の摂取量を減らすなどの工夫が必要であろう。

 

※今回は、1回の調理で3回測定しましたが、場合によっては同じ事を3回別の日に行い、合計9回測定精度を確認する必要があります。

※久々にこのような書きかたをしたので、情報に抜けがあったらすみません。。

 

素材(特に味噌)のメーカーが違えば全く違う結果になってしまいます。鍋やコンロが違うだけでも、同じ時間加熱しても水分の蒸発量の違いから塩分濃度が変わってしまう可能性があります。

とはいえ、つねに「測定誤差をどこまで許容するか」との兼ね合いになってきます。測定装置の性能がさほど良くなく、アルミの鍋でもホーローの鍋でも同じ結果が得られる程度なら、鍋の材質までこまこまと言及する必要はありません。この辺の判断は、センスと経験でしょうか。(わざわざ予備実験をして確かめることもあります。)研究しはじめのうちは、こういったことでよく上司に注意を受けるものです。

 

だいぶ長くなってしまったので、さらに面倒くさい「正しい(とされてきた)実験ノートの書き方」については次回にします。

 

 

 

*1:いずれも品質管理基準

*2:信州みそラボwebサイトより  http://www.shinshu-miso.or.jp/research/category/post-2

*3:厚生労働省webサイトより http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/kouketuatu/meal.html